イノベーションのために、あえて退路を断て! 第4回 〜「日経NET BizPlus」 連載
- 金森 努
- 2003/07/10
[IT & マーケティングEYE]
ついに景気回復か?
日経平均も9000円を超える日々が続き、ついにこの景気も末期症状を脱したかのようにも見える。事実、各企業の動きを見ても、一時期の首をすくめて全く動きを止めてしまっていた姿勢とは異なり、徐々に新たな展開を模索し始めている様子が見える。
いささか乱暴な言い方ではあるが、このような時にこそ、「革新的な取り組み=イノベーション」が必要なのではないだろうか。今回は経済のV字回復への祈りを込めて、企業におけるイノベーティブな取り組みの成功ポイントを述べてみたい。
“カイゼン”と“イノベーション”
「今こそイノベーション」と述べたが、全ての企業にそれが当てはまるとは限らない。まず、現在必要なのは“カイゼン”なのか、“イノベーション”なのかの見極めが重要だ。従来の延長線上にある目標に向って、飽くなき改善を図っていこうという、TQC(全社的品質管理)のような取り組みを継続的に行っていくべきなのか。もしくはCRMやSFAなどのを導入し、社内のしくみ自体を今までと全く変えていくべきなのかである。
カイゼンとイノベーションの違いは過去、様々論議されている。だが、いざ現場での実際は、論理的な違いだけではなく実行上の違いが出てくるのだ。カイゼンはその一つの形態であるQCサークル(品質改善小集団)に代表されるような、言ってみれば“現場持ち寄り型”の展開が適しており、各現場の意見の吸い上げ、合議性、ボトムアップ型で推進される。そして、その成果において大小はあるものの、多くの場合、やれば何らかの結果が出る。つまり、成功率が高いのが特徴だろう。
確かにカイゼンのベースが出来上がっている企業であれば、それを続ける、もしくはさらにブラッシュアップを行えばよいだろう。しかし、社内にそれがなかったら…。今から遅ればせながらカイゼンへの取り組みをするのではなく、景気の上昇に乗り遅れず、業績をV字回復させるためには、イノベーションに取り組まねばならないのではないだろうか。
そして、そのためには強力なトップダウンが必要であり、社内におけるイノベーションに誇りと自らの全てを賭ける担当者が必要となる。決して現場持ち寄り型では成功しないのだ。
イノベーションを阻むもの
CRM(Customer Relationship Management)やSFA(Sales Force Automation)の数々の失敗例は、実はイノベーションの難しさを表していると言えよう。イノベーションはしばしば“従来業務”と対立する。現在の社内のしくみ、組織のテリトリーによる軋轢は容易に想像できるだろう。それ以外にも、既存の各業務範囲や評価に対する変化の不安は程度の差こそあれ、様々な担当者から発生するだろう。そのような時には“現場持ち寄り型”の展開は致命傷ともなりえるのだ。つまり、“プロジェクトチーム”は全て兼任者で、各部門の代表的な意見を持ち寄る。兼任者は既存業務の合間にプロジェクトの仕事を行うように指示されている。兼任者の既存業務の負荷は結局減らず、プロジェクトに時間が割けない。所属部署に遠慮して大胆な意見も言えない。いわゆる股裂き状態である。そして結局プロジェクトは硬直、やがて霧散する。
バーニング・ブリッジを渡れ!
“バーニング・ブリッジを渡る”という表現がある。元いた所に戻れぬよう、自ら渡って来た橋を焼き落として先に進むという意味だ。まさにイノベーティブなプロジェクトの担当者に必要なのは、好むと好まざるに関わらず、この立場になっていることだ。既存の業務・部署から切り離された専任者の集まりがトップダウンの後ろ盾をもって活動することこそが成功の秘訣なのだ。
言ってみれば当たり前なことではあるが、実にこれが実践されている例が少ない。プロジェクトの失敗事例は様々あるが、この様に、そもそもの環境が整っていないケース、つまり戦う前に敗れているケースが非常に多いのだ。それはプロジェクトの担当者たちの責任ではなく、社の、もしくはトップの責任であると言えよう。
日本の経済は伝統的に夏枯れするが、今年の夏は何とか夏に再び停滞することなく回復を本格化させてくれることを願ってやまない。しかし、そのためにも従来にとらわれないイノベーションが必要なのだ。それにはまず、スタート時点から始まることを忘れずに認識して頂きたい。

