進化したASPマーケティングシステムを使いこなせ! Wunderman's View No.6
- 徳丸 順一
- 2003/09/04
[Wunderman's View]
コスト感覚のない未来のシステム?
今年の夏休みは、予想外の雨天の連続で予定がすっかり狂ってしまった。仕方なくレンタルビデオ店に行ってある作品を借りた。2002年日本公開、監督:スティーブン・スピルバーグ、出演:トム・クルーズ、コリン・ファレルの「マイノリティー・レポート」だ。観るのは2度目であるが、やはり同じシーンが気になった。壁面に設置された屋外広告である多数のビデオポスターの横を、トム・クルーズ演じるジョン・アンダーソンが通り過ぎるシーンだ。
ご覧になった方も多いと思うが、ビデオポスターの横を通り過ぎると網膜スキャンにより個人を特定して屋外広告が語りかけてくる…「ジョン・アンダーソンさん、新しいデザインの洋服がでましたよ」「ジョン・アンダーソンさん、旅行はいかがですか?」…
現実に遭遇したら、消費者はうんざりしてしまうであろうし、それ以前に「一体どれぐらい巨大で高額なシステムになってしまうのだろう?」との疑問も浮かんでくる。
だが、確かに仕組みとして考えると興味深い。すべてのネットワークが単一、あるいは連動したデータベースにつながっており、その人のすべての行動履歴を保持し、メディアに接触するとその人へのパーソナライズ・メッセージを伝達する。実際のお店に足を運んだら、メッセージが変ってくるのだろうし、ライバル店に行ったらまた違うメッセージが発せられるであろう。
今日、現実の世界でもWebコミュニケーションにおいてはリコメンデーション・エンジンの導入により、単一のデータベースに履歴を保持し、Webサイトのコンテンツをダイナミックに変化させたり、CRMソフトのキャンペーンeMail機能を使ってeMailコンテンツを差し換えたり、適切なタイミングに配信したりすることは可能だ。
しかしながら、現状ではごく一部の企業だけしか導入実績がなく、特にここ1〜2年では導入数が鈍化している。華やかな未来予想と異なり、昨今の景気低迷の中で、高額なシステムの導入費とメンテナンス費に企業が耐えられないからだ。
高度化したASPを使わない手はない!
一方で、大規模システムを持たずともマーケティング施策の一環として、顧客や見込み客にeMailを配信している企業が確実に増えているのも事実だ。個人商店がメール配信ソフトを使用しているケースもある。楽天などのネットショッピングモールに出店している場合は、そこに備わっているメール配信エンジンを使用しているであろう。また、ある程度の規模の企業であれば、「CRMパッケージ」とまでいかずとも、自社にeMail配信エンジンを導入しているケースも見受けられるようになってきた。
しかし今日、最もポピュラーなのはASP(アプリケーション・サービス・プロバイダー)の配信エンジンを利用することである。高額なeMail配信エンジンを自社に導入することなく、手軽に利用できる仕組みとして始まったASPエンジンであるが、それが広く受け入れられ、使用されているのだ。
一部のASPベンダーは、より緻密なマーケティング活動ができるように独自の進化を図っている。その中でも飲料などでおなじみの、携帯電話を使ったキャンペーンの仕組みは秀逸だ。キャンペーン・マネジメント・システムと呼ばれる類のASPエンジンがそれにあたる。
データベースの属性や履歴に応じてeMailコンテンツを差し換えるのはもちろんのこと、メールを配信するだけの単純なASPエンジンでは不可能な、受け皿としてのWebページも、My Page機能を使って個々に生成できる。eMail配信と受け皿のWebページが単一のデータベースに連動しているため、配信停止や登録内容変更だけなく、個々の履歴に応じてオススメの商材やキャンペーンの差し換えも可能になるのである。
このASPの価値は、高価なCRMパッケージを自社に導入しなくとも、それに近いことが運用次第で可能になることだ。もちろんHTML Mailもリスト属性に応じてコンテンツを差し換えて配信できるし、PCだけでなく携帯電話にも対応可能という柔軟さも確保されている。
配信だけではもったいない!
マーケティングDBとしての妙味 現状、自社のマーケティング・データベースから毎回配信リストを切り出して、単純配信型ASPエンジンでeMail配信を行っている担当者がいらしたら、「キャンペーン・マネジメント・システムASPエンジン」に乗り換えることをお勧めしたい。自社のマーケティング・データベースから、これらキャンペーン・マネジメント・システムにデータを移管し、こちらをマーケティング・データベースとして運用するのだ。
単純配信型ASPエンジンと比較して費用が特別高額なわけではない。それなのに、eMail & WebページのOne to One機能を活用することができ、コミュニケーション施策の幅をぐっと広げることができるのである。
これらASPエンジンは本来eMail配信が目的なので、eMailアドレス項目が必須になっているものがほとんどである。しかし、カスタマイズ対応が可能なASPを選べば、さらに可能性は広がる。
発想の転換であるが、eMailアドレスを必須項目から外すのだ。eMailアドレスを必須項目から外すことにより、eMailアドレスがない顧客リストもデータベースに登録できる。
そして、まずはDMなどのリストとして活用する。その後の継続的なコミュニケーション施策の中でemailアドレスを獲得し、それ以降はコストの安いeMailにてコミュニケーションを図るという、コミュニケーション上の進化と効率化を図るシナリオを作ることも可能になるのである。まさに単なる配信エンジンを越えた、マーケティング・データベースとしての活用だ。
システム選択におけるポイントは?
ASPエンジンは、他社と機能を共有するベストエフォート型のサービスなので、パフォーマンスに不安がある方もいらっしゃるだろう。
しかし、実際には各社のASPとも、1時間あたり数十万通配信というスペックがあたりまえになっているので問題はない。むしろ、それ以上のスペックを要求しても、現実的には携帯電話のキャンペーンの場合、数十〜数百万の配信を一度に行うと、通信キャリアのスパムフィルターに引っかかる。カタログ的な強力なスペックの確保ではなく、現実的な仕様として練られ、あえて配信速度を遅くしたり、データをいくつもに分割し、配信しているのだ。
またセキュリティー面で不安な場合は、プライバシーマークの取得を基準にベンダーを選定したり、運用面で不安があればサービス・アグリーメントを締結すればよいであろう。完全な保障になるわけではないが、心配の種は少なくなるだろう。
ASPはますます進化する!
そしてコンテンツは? ASPとはいえ、カスタマイズの要求や、ユーザーの機能要求に応えることによって、ASP各社も生き残りを図っている。つまり、ユーザーである企業、担当者であるマーケッターの工夫と想像力でASPはこれからもますます進化するのだ。
今後は、二次元バーコードやICタグ等との連動も近い将来利用されるようになるであろう。現実の世界でのアウトプット・メディアは、今のところeMailとWebページだけであるが、その他のメディアがつながってきたら…そう、間違いなくマイノリティー・レポートの世界は現実のものになりつつあるのだ。映画の中に出てきたあのシステムも、意外とASPでの運用をイメージされているのかもしれない。
しかし、システムがいくら進化しても、あくまで受け取る側にとって魅力のある内容でなければ、期待する効果が得られないのは言うまでもない。パーソナライズやセグメントの機能があるからといって、顧客との距離・関係を無視した固有名詞を連呼するコミュニケーションや、決め付けリコメンデーションなどを行えば不興を買うことになる。パーソナライズやセグメントというテクニックを使うことが、顧客の満足度を充たし、LTV(Life time Value)を向上させることにそのまま直結するのではないことを、何より肝に銘じるべきなのだ。映画の中のうっとうしいまでのパーソナライズされたレコメンデーションは、テクノロジーオリエンテッドなコミュニケーションに対する警鐘でもあると理解すべきであろう。
