新説・ナレッジマネジメントのエンジン理論 Wunderman's View No.9
- 金森 努
- 2003/12/04
[Wunderman's View]
10月に『News & Service』の第1号にてナレッジポータルのご案内を差し上げて以来、ナレッジマネジメント(KM)に関するお問い合わせを多数いただいております。この場で厚く御礼を申し上げます。
KM担当者の永遠の課題とは?
さて、上記のお引き合いに対してはその企業を訪問し、ご担当の方のお話を伺っているのだが、概ね共通した問題点を抱えていることがわかる。これは当ニューズレターでもかつて指摘した点であるが、KM担当者における永遠の課題ともいえるものなのだ。それは…
「ユーザーが情報を入力してくれない!」
「社内からナレッジの吸い上げができない!」…というものだ。
企画書や報告書などの様々な社内のナレッジは、いくらKM担当者が「登録してください!入力してください!」と声をからしてみても集まるものではない。ユーザーは多忙であり、自らが情報を使うことに関しては関心を持つが、情報を供出することには情熱を傾けることはあまりないのだ。この点に関しては、ユーザーに対してあまり「性善説」を期待しないほうがよいだろう。
この問題解決のために、多くの企業のKM担当者は涙ぐましい努力をしている。高圧的に管理職から入力を命令するのではなく、KMアシスタントの女性スタッフがナレッジを抱えていそうな担当者に1 to 1でお願いをしている例もある。また、入力を面倒がる営業担当のために、手書き、殴り書きの報告メモを代理入力する制度を用意し、成果をあげている例もある。
各企業の担当者のお話を伺うと、いずれも並大抵の努力ではない各社なりの方法論を持っている場合もあり、それを取材することはなかなか興味深いものである。しかし、今回は根本的な部分を再整理し、抜本的な解決方法を探ってみたいと思う。
「ストック」と「フロー」のナレッジという考え方
「ナレッジの吸い上げ」と述べたが、意外とその「ナレッジとは何なのか」をきちんと特定できているケースは少ない。また、ナレッジマネジメント関連の書籍でもはっきり述べられていない。ここではっきりさせておこう。ナレッジは二つの種類に分けて考えるべきだ。それは「ストックのナレッジ」と「フローのナレッジ」である。そして、それを抽出するには、各々方法論が異なることも重要なポイントだ。
- ストックのナレッジを掘り出す
「ストックのナレッジ」とは、個々の担当者の中では「暗黙知」の状態ではあるが、頭の中や、バラバラのドキュメントの中に、ある程度まとまって存在している状態のものだ。問題は、それを「形式知化」させる、つまり一つのドキュメントとしてまとめ、誰が見てもわかる状態にさせることがなかなかできないことである。これはナレッジをもった担当者本人に、そのドキュメント化の作業をさせる以外に方法はない。しかし、先に述べたように掛け声だけでは動いてはもらえない。解決策は、ナレッジをドキュメント化させる「しかけ」を作ることだ。しかけとは、例えば定例会議で事例発表の場を設け発表させる、社内研修を開催し講師をやらせるなど、発表者や講師としてその素材をとりまとめる機会を作ることだ。もちろん、その担当者に対する褒賞/顕彰を行いモチベートし、質の高いナレッジを供出させることも忘れてはならない。いわば、「アメとムチ」のアメを与えるしかけを定期的に実施し、ストックのナレッジを掘り出していくのだ。そうすれば、一定期間に一定量のケースを確実に収集できることになる。
実は当社の場合のナレッジマネジメントは、初期段階「登録してください!入力してください!」という掛け声だけで一度失敗。その後このアメ方式を導入して社員を講師とした社内研修を多数実施し、大量のストックのナレッジを掘り起こしに成功。さらにその後、各種会議をキーとした掘り起しのスキームを作り上げることができた。当社の成功体験からしても、この方法は是非ともお勧めしたい。
- フローのナレッジを抽出する
「フローのナレッジ」とは、業務の中に散在している、次々と生成されては消えていっているナレッジのことだ。
業種/業態によって異なるが現代のビジネスにおいては、ビジネスプロセスの中で様々なドキュメントやコンテクスト(進捗状況)が作成されている。提案書、見積、仕様書、受注確認書、報告書、請求書…それら一つ一つが、そのまま共有できたり、磨けば価値を産むナレッジである可能性を秘めている。しかし、個々の担当者レベルで死蔵されていることが少なくない。フローのナレッジは何らかの方法で抽出しなければならない。そのためには業務プロセスに注目することが重要だ。先のドキュメントをみれば、見積、受注確認書、請求書などはいわゆる業務系/基幹系のシステムで把握できる場合が少なくない。それに対して提案書、仕様書、報告書などのナレッジとして価値を産みそうなものほど、個人のハードディスクやファイルサーバなどで属人的に管理され、共有される可能性が低くなってしまう傾向が強い。そこで、業務系/基幹系とナレッジポータルを連動させるのだ。
つまり、「アメとムチ」のムチを入れるしくみとして、見積、受注確認書、請求書などを発行するには、それに紐付いて作成されているであろう、提案書、仕様書、報告書の提出を義務付けるのである。ドキュメント管理のルールを変更し、個人の管理下から組織の管理へ移行することで、成功への第一歩を踏み出そうという発想だ。
但し、この場合、あまりムチを強力にしすぎて反発が強まり、形だけのドキュメントだけが集まって価値あるナレッジが結果として集まらないという悪循環は避けなければならない。そのため、どの程度の強制力を持たせるのかという配慮も必要だ。また、前述の「アメ」である褒賞/顕彰制度に、このしくみに則ってドキュメントを提出していれば、自動的にエントリーされるというようなしかけも同時に用意したほうがよいだろう。
自社のKMのエンジンを見極める
前述の例の最大のポイントは、「自社のKMの推進エンジンを何にするのか?」という、実は自社のKMのグランドデザインに関わっているのに気付かれただろうか。
まず、「アメとムチ」という考え方に則って、初期段階では「定例会議、社内研修での発表による褒賞/顕彰」というエンジンで走り出し、ストックのナレッジを発掘。それが軌道に乗ったところで、次に「基幹/業務システムとの連動による強制的な抽出」というエンジンを増設し、フローのナレッジを抽出するというのが先のケースの基本設計だ。
「ユーザーが情報を入力してくれない!」「社内からナレッジの吸い上げができない!」というのは、言い換えれば自社の「KMが推進できていない」ということだ。KMの推進には、その推進エンジンが必要となる。そしてその設計は、初期段階でなされ、実行に移されなければ当然立ち行かなくなるのだ。
もちろん企業文化によっては、先に筆者が否定した「性善説」に立脚し、自主的なナレッジ供出が行われるコミュニティが形成される場合などもあるだろう。そうであるならば、アメとムチではなく、その環境の中でより効果的/効率的にナレッジが抽出できるエンジンを見つければよいだろう。大切なのは、「KMがうまく立ち上がり、ストップしない推進力」を設計段階から組み込んでいくことなのだ。また、ナレッジポータルの導入などに際しても、その点が考慮されているかを選択基準とすべきであろう。
よりユーザーの理解を得るために
ナレッジマネジメントは、昨年あたりより学問の世界からビジネスの世界にかなり浸透し、「暗黙知」「形式知」という概念も徐々に理解されつつあるようだ。しかし、ユーザーにも理解、浸透を図るためには、今回ご紹介したような「ストックとフロー」という、よりわかりやすい概念で説明するなどの努力も今後必要になるだろう。わかりやすさも成功の大きなポイントであるのに間違いはない。
また、当ニューズレターの読者の方は、企業内においてユーザー側の立場の方も多いだろう。その方々には、今後、企画/営業現場におけるナレッジの重要性と可能性について再度考えてみていただければ幸いだ。
