マーケティング的失敗学のすすめ TIPS★TIPS No.12
- 金森 努
- 2004/03/18
[TIPS★TIPS]
失敗学とは?
2000年の末に講談社から工学院大学教授、東大名誉教授・畑村洋太郎氏の『失敗学のすすめ』が発刊されて以来、「失敗学」が話題になり、今日ではその考え方はビジネスの世界においても完全に市民権を得た。失敗学という言葉は作家・立花隆氏が命名したものであるが、2002年12月に畑村氏が会長となって設立された特定非営利活動法人・失敗学会によれば以下のように定義されている。
「生産活動には、事故や失敗は付き物である。これら、事故や失敗は小さなものから、経済的損失につながるもの、負傷を伴う大きなもの、さらに多数の死傷者を出す大規模なものまである。特定非営利活動法人「失敗学」は、こういった事故や失敗発生の原因を解明する。さらに、経済的打撃を起こしたり、人命に関わったりするような事故・失敗を未然に防ぐ方策を提供する学問である。」
マーケターにとって失敗学の必要性とは?
さて、我々マーケターの立場で「失敗」という単語を連想したときには、さすがに「多数の死傷者を出す」という内容にはならないだろう。しかし、畑村氏は著述の中で、失敗とは「こうなるだろうと思って行動したが、はじめに定めた目的を達成できないこと」と定義している。これなら誰しも思い当たるフシはいくつかあるはずだ。そう、まったく成果の上がらなかったマーケティング施策などはそれに当たる。
しかし、我々の世界では前述のような死傷事故のように悲惨な結果がないが故に、ともすれば失敗というものの定義がそもそもあいまいになりがちだ。確かに応募者がほとんどいないキャンペーンなどは明らかな失敗だとわかるが、その施策の成否が不明確なまま終わることも少なくないだろう。そうだとしたら、失敗学の基本である「失敗に学ぶ」ということができなくなってしまう。何がうまくいって、何がうまくいかなかったのか。ダイレクトマーケティングは結果の計測こそが命である。レスター・ワンダーマンも19の法則の中で「次の段階:利益を生む広告」として「広告の成果は、ますます測定可能になっており、いまや計測できなければならない。」と述べている。成否の正確な把握と、そこからの学びこそが重要なのである。それは、レスター・ワンダーマンがダイレクトマーケティングを提唱して以来、半世紀の歴史を持つ我々ダイレクトマーケターのDNAでもあるはずなのだ。
失敗に学ぶための第一のTIPS:KPIの設定と結果検証の確実な実行
レスターも述べているとおり、今日の広告は測定可能なものが極めて多くなっている。特にデジタルコミュニケーションはほとんどが測定可能であるといっても過言ではない。とすれば、成否の把握のために何を計測するのかという基準が非常に重要となる。KPI(Key Performance Indicator)の設定である。そして、それに基づいた結果検証を確実に実行することである。
失敗に学ぶための第二のTIPS:失敗事例発表会と研究会を実行する
畑村氏は数々の企業不祥事に代表されるように、「失敗情報は隠れたがる」と指摘する。それ故に、まずは失敗事例を把握することが欠かせない。第一の TIPSで述べたように、KPIを設定し、効果検証を実行しても、それが個々の担当者レベルでとどまってしまっては意味がないのだ。事例発表を積極的に行う文化のある企業も少なくない。しかし、それらを見てみると、大半が優秀な事例の発表だ。また、部門対抗の発表大会のような形式を取っている場合、粉飾とまではいかないが、かなり内容的に成功ポイントが強調され、美化されたものになっていることも少なくない。
そこで、「失敗事例発表会」とそれに続く「研究会」を開くことをおすすめしたい。単に「失敗事例を報告しなさい!」と号令をかけても表出するものではない。発表の場を設け、発表することが当たり前となるような仕組み作りが必要なのだ。当然、失敗が責められたり、「恥ずかしながら」という論調の発表であってはならない。失敗原因を明確に分析し、気づきを発表できたことが称賛されるような文化を育てなくてはならないのだ。
失敗に学ぶための第三のTIPS:KM失敗学は車軸の両輪で
失敗学はKM(Knowledge Management)の一部なのか独立したものなのかは別に論議のあるところであろうが、この両方が同時に機能しなければならないのは明らかだ。KMは従来の研究開発やカスタマーサービスの現場だけではなく、マーケティングや営業現場においても効果・効率的な施策立案や事例共有のために数多く取り入れられ始めている。しかし、注意しなくてはならないのは、KMを優良な企画や事例を共有するための便利ツールとして使ってしまうと、担当者の「思考停止」が起こってしまうことだ。誰もが優良な企画のテンプレートを簡単に手に入れられ、複製できるとしたら、自ら考える努力を怠るようになる。新たな創造が起こらなくなってしまう。結果、一時的に生産性は向上するものの長期的には戦力が低下していく。知識共有をして、全体としての知恵が失われていくことになるのだ。
畑村氏も文芸春秋社刊「決定版 失敗学の法則」の中で以下のように述べている。「『うまくいく方法』だけを学んだ学生たちは、既存の技術のまねや、過去に起きた問題への対応は上手にできても、設計の分野でもっとも大切な『新たなものを創造する』という能力がなかなか身につきませんでした。(中略)行き着いたのが『うまく行かなかったやり方』、つまり『失敗』に学ぶことがものごとの真の理解につながるという結論でした」。
失敗学でマーケティングを変えよう!
モノ作りの現場においてはこの失敗学が浸透してきている。マニュアル的な業務やTQC盲信が反省され、考えること、工夫することの重要性が見直されている。とすれば、我々マーケターも謙虚に失敗に学ぶことをもっと実践すべきだろう。例えば第一のTIPSでも述べた結果検証であるが、単純にレスポンス分析を行うだけでなく、同時にノン・レスポンダーの属性分析や要因分析などがそうだ。うまくいかなかったときの分析は、うまくいったときよりもさらに力を入れて行うのがダイレクトマーケティングにおいては基本でもある。
景気は回復基調にあるとはいえ、企業は今後もさらなる効率化と効果向上を図らなければならない。そのためにも個々の施策をもっと見直し、よりよいものにしていく努力は欠かせないはずだ。今回提言させていただいた3つのTIPSとともに再度考えてみていただきたい。

