ネット販売における“カスタマイズ”と“サプライズ” 第41回 〜「日経NET BizPlus」 連載
- 金森 努
- 2005/02/17
[IT & マーケティングEYE]
ノートPCを購入した。メーカー直販サイトで一瞬にして298,700円のマシンの「購入ボタン」を押してしまったのだ。
今回は筆者の購入に至るまでの心の動きを皆様に公開し、ネット販売がさらに伸びるためにはどのような要素が必要なのかを考えてみたい。
まずはリアルの売り場で体感
さて、なぜノートPCの購入したのか。それは、どんなに人から“旧機種”と揶揄(やゆ)されても5年来使用してきた愛機がいよいよ致命傷を負ってしまったからだ。つまり、筆者はPCを頻繁に買い換えるタイプでは全くなく、かなり購入には腰の重い方なのだ。
さらに、困ったことがあった。愛機のメーカーはパソコン事業を海外に売却することを決定しており、サポート等に少々不安を感じ泣く泣くブランドスイッチも含めて検討をすることになったのだ。そのメーカーの熱烈なファンというわけではないが、購入選択肢として他のメーカーを全く考えていなかったので情報が全くない。
まずはネットで少々調べ物をしたが、キータッチにこだわる筆者としては実機に触れたいと考えた。そして家電量販店売り場で各メーカーの展示機種をくまなく触り、比較し、もとのメーカーのものを購入するか、ブランドスイッチするか、機種は2つに絞り込まれた。
しかし、購入に踏み切る何かが足りなかった。もとのメーカーは筆者にとって前述の不安要素がある。新たに選んだメーカーのものは、スペックは申し分ない。価格もまあ妥当だろう。デザインも好みの方だ。余計なソフトがいろいろ入っていないところもビジネス機として使いたい意向に合致している。だが何かが足りない。
ネットに戻って再確認
どうしてもどちらの機種にも購入に踏み切れなかった筆者は、再度両メーカーのWEBサイトに戻ってあちこちのコンテンツを閲覧してみた。そして“足りない何か”が分かった。もとのメーカーは店頭ではなくWEBサイトであれば、「カスタマイズモデル」を自分の予算と希望のスペックの間でバランスをとって作ることができる。しかし、店頭で見た新たに購入検討をしたメーカーの機種は、店頭ではワンスペック、ワンプライスでしか販売していなかった。その“お仕着せ感”が嫌だったのだ。
しかし、新たに購入検討をしたメーカーのサイトにも、よーく見てみると、隠してあるかのように分かりにくい場所に「PCオンラインショップ」というコーナーがあったのだ。しかも、そこでは自分でカスタマイズモデルが作れる!
恐らく量販店とのチャネルコンフリクトを恐れて遠慮がちな場所にコンテンツを置いているのだろうが、自分でカスタマイズできるのであれば全く検討条件が変わる。
“サプライズ”という重要な要素
早速、カスタマイズモデルのシミュレーションをしてみる。そして始めて見てすぐに筆者はあっと驚いた。もとのメーカーのカスタマイズはスペックのみであるが、このメーカーのカスタマイズはPC筐体(きょうたい)のいくつかの部位のカラーをいろいろ選べるのだ。しかも、筐体の裏にオーナーの名前を刻印してくれるという、パーソナライズのサービスまである。
夢中になって様々なカラー、スペックの組み合わせを試し、「これだ!」というモデルができあがった。そして次の瞬間、予算よりも7〜8万近く高いにもかかわらず、早くも購入ボタンを押していた。
“カスタマイズ”と“サプライズ”、この2つは重要な要素であろう。PC初心者ならいざ知らず、ある程度のユーザーになると店頭のお仕着せスペックの機種は買いたくない。量販店のポイントサービスに未練は残るが、ネットならではの“カスタマイズ”は魅力だ。さらに、“ネット限定色モデル”は様々な商品で展開されているが、まさかこのメーカーのこの機種で、ここまで細かく指定ができるとは思っていなかった筆者の場合、“サプライズ感”が決め手になったのだ。
まだまだ“店頭購入派”をねらうための“カスタマイズ”と“サプライズ”
ネットでの商品購入に慣れている人にとってはPCに限らず、カスタマイズは余り珍しくないだろう。しかし、まだまだ数多い、“店頭購入派”にとってカスタマイズは新鮮だ。むしろ、ネットで現物を見ないで購入を決めてしまう人より、何度も店頭に足を運んでそのスペックから質感まで十分理解している人の方が、WEBサイト上でのカスタマイズのシミュレーションも実感を伴って行える。
さらに、“サプライズ”の要素はパワフルだ。さんざん店頭で見てきたお仕着せの商品以外に「こんなモデルが作れるのか」という驚きは、強力な購入意思決定を引き出すことができる。恥ずかしながら筆者はノートPCの筐体天板が赤いモデルが作れることを知った瞬間、その赤いノートPCを颯爽(さっそう)と持ち歩く自分の姿を想像し、どうしても欲しくなってしまったのだ。
チャネルとの連動という課題は残る
しかし、今回の筆者の購入。もし、店頭で「ネットでカスタマイズモデルが作れます」という情報が取得できていれば、もっと早く購入意思決定ができたであろう。逆に、わかりにくい場所にある直販サイトを見逃していたら、この機種は購入しなかったかもしれない。
メーカーと流通のチャネルコンフリクトは永遠の課題であるが、購入時に店頭とメーカーのWEBサイトを、確認の意味をこめて行ったり来たりするユーザーは今後ますます増えていくだろう。本来的にはメーカーと流通が歩み寄ってもっと連動を深め、メーカー・流通・ユーザーの三者が満足する仕組みの構築が望まれるところだ。“クリック&モルタル”はもはや死語であろうが、旧態依然とした流通の壁がその真の実現を阻んでいるようだ。
