好きになってもらう前に、理解してもらう努力 Wunderman's view No.54
- 東井 良夫
- 2007/08/02
[Wunderman's view]
昨今、ポイントプログラムが花盛りである。
今や量販店や小売店などが販売促進策の一環として提供するポイントプログラムのポイント還元額は年間で1兆円規模にもなるという。個人的な感想ではあるが、ポイントプログラムを実施していないと企業努力が足りないとさえ感じるから怖いものだ。
一方で、ポイントサービスを提供している企業側ではポイント還元の効果を認めつつも、ポイントだけにつられてくる一時的な顧客は真の顧客(ロイヤルユーザー)ではないと考えられ、その判別の難しさに悩まれているようで、お客様の企業からそのような話を伺う機会が増えている。
“ポイント提供に頼らない顧客との関係性を築きたい”
“お客様に好きになってもらい、選んで欲しい”
もっともな話であり、提供する商品やサービスの基本的な価値を認め、他の競合商品には目もくれずに使い続けてくれるロイヤルユーザーこそが、企業側から見れば理想なのだ。
そこで、今回は“お客様に好きになってもらうには”をテーマに、これらの悩める企業側の現状と解決方法に関して、コミュニケーションの観点から少し考えてみたい。
大企業ほど焦りを感じている?
前述したポイント還元プログラムと顧客との関係性にある種の焦りを感じている企業には、一つの共通点がある。偶然かもしれないが、世間に名が通り、かつて栄華を極めた歴史を持つ企業であることが驚くほど多い。
私的感想ではあるが、絶対的地位を築いていた企業ほど、自分たちの今までのやり方が通じなくなってきていると感じているのではないかと思われる。昨今よく言われることだが、商品やサービスの差別化がますます難しくなってきていることによる手ごたえの弱さに加え、ポイント還元を行わなくても売れていた時代を知るが故に、そのような発言をさせるのではないだろうか。
しかもポイント還元も当たり前となる中で、好調だった頃から比べシェアを少しずつ落としている現状に焦燥感を募らせ、ポイントプログラム以外の緻密なコミュニケーション施策により差別化を補う必要性からご相談を受ける機会が増えているのだろう。
コミュニケーションの棚卸
このようなコミュニケーション施策の見直しの相談を受けた場合、私たちはお客様企業にワークショップ形式によるマーケティングサービスを一定の期間提供しているが、綿密なコミュニケーション体制の構築には近道はなしと考える。
詰まるところ、まずは過去の実施施策の棚卸から始めるしかないのである。
例えば、
@過去に実施したキャンペーンの趣意と効果の検証
ライバル企業が打ち出してきたキャンペーンに対抗など実施ケースもさまざま。また担当者が異動になり今更その趣意を掘り起こすのが困難な場合もあるが、詳細部分にこだわらずに過去2年程度を遡って実施報告書などのドキュメント類から追っていくことをお勧めする。
A既存顧客の商品(サービス)理解度の調査・検証
「無料で提供の特典さえ利用されない既存会員が存在する」と嘆かれる担当者も多い。どんなにバリューのあるサービスや特典を提供しても理解されなければ始まらない。短期的にでも数値を稼ぎたい担当者の気持ちは分かるが、まずはリサーチなどをからめて商品(サービス)理解度を調査することをお勧めしたい。新たな利用を勝ち取るのは、利用者が商品(サービス)を理解しリスクを許容できると認識したときから始まるものである。
B社内に分散したデータの集約と解析
日本企業の場合(特に大企業)では、このフェーズの実施が最も困難となる場合が多い。というのもトランザクション系のデータは基幹系システムに組み込まれていることが多く、コールセンターのデータなどは所轄部署が異なり、検証したくても組織的な問題からアンタッチャブルにならざるを得ないケースも多々ある。日本企業の組織論にも起因する根深い問題でもあり、簡単に解決できるものではないが、担当者のリーダーシップを軸に関係部署の理解を根気強く求めることが重要となる。
以上のように、すべての情報が集まらなくとも時系列に並べていくことで、訴求ターゲットの偏りなど、新たな発見がある場合が多い。また、効果検証も定量的な数値であることが望ましいが、ない場合には当時の担当者の所感などでも丁寧にたどっていくことが重要である。ここでは“足りない情報や偏りを発見すること”と考えて取り組んだ方が成果を得ることが多い。
コミュニケーションの棚卸の実態は・・・
以上のようなステップで、コミュニケーションの棚卸作業をさまざまな業種、業態のお客様と共に行なってきたが、以下のような共通項が存在することが多い。
@ロイヤリティーなどの顧客視点の社内定義が曖昧、もしくは部署により異なる。
Aニーズ把握のために過去多くの顧客調査を実施しているが、それらが生かされていない。
Bインパクトのあるキャンペーンやプロモーションが必要と考えているが、効果を把握しきれていない。
(売上高といったマクロ的把握がほとんど)
C情報(マーケティング)系データベースを利用しきれていない。
(実態としては名寄せレベルからできていないケースが多い)
これらの項目において、程度の差はあるが多くの企業で同じような状況が存在している。
理由としては、あくまでも私の所感であるが、企業活動の多くは商品開発と販売活動・支援および販売促進プロモーションの実行にリソースを投入している。その結果としてキャンペーン評価や情報系データベースの活用が進んでいないとしても、それは致し方ない実情がある。
しかし、そのような状況を放置していては、コミュニケーションの積上げ(醸成)は望むべくもなく一過性のキャンペーンに頼らざるを得ない。そこに、昨今のポイントプログラムへ傾倒する理由があるのではないか。
好きになってもらう前に、理解してもらうことからスタートしよう
一通り過去のコミュニケーションの棚卸を終えたところで、私たちなりの検証を加えることになる。その際には、月並みではあるがユーザー視点を重視する。
多くの企業では、コミュニケーション戦略を立てる上でターゲットをよりよく理解するために顧客情報を集めたいと考えるが、今の時勢では信頼を寄せていない相手においそれと個人情報を提供する人は少ない。経験上、そのような関係性においてはキャンペーンの応募のためのプロフィールもかなり省略した書かせ方となっている場合が多く、有効な情報が手に入りにくい。
このような検証結果が見受けられる場合、“顧客に好きになってもらいたい=惚れられたい”のであれば以下のステップが重要とお話をさせていただいている。
ステップ1:自分たち(企業)のことを理解してもらえるように努める。
販促コピーの羅列ではなく、あくまでもユーザー視点に立って商品(サービス)の基本的価値や使用(利用)上の注意も丁寧に訴求することで、企業姿勢の理解を求めることも重要。
ステップ2:相手(ユーザー)のことを教えてもらい理解に努める。
Eメールコミュニケーションはコストの安さから一括配信を選択しがちだが、コミュニケーション頻度が増えるほどターゲットごとに提供情報の内容に気を配ることも肝要。さらにアクセス障壁を下げる努力をするとともに、意図を明確に必然性の感じられるコミュニケーションによる情報収集を心がける。
ステップ3:足りない部分を補うために、さらに自分の良いところを理解してもらうように務める。
上記のステップで得た基本情報に加えて、取引の頻度や扱い高などの売り上げ(トランザクションデータ)、ロイヤリティー要素を加えるべく、顧客との接触頻度・理解度(リサーチデータ)・関与度(加入年数、世帯利用等のプロファイルデータ)などを定量的スケールに当てはめてセグメンテーションを作り、検証の土台を構築する。その上で、顧客セグメントごとに足りない要素を仮説と検証を繰り返しながら補っていくのである。なお、この定量スケール作りには多くの時間と労力を費やすことが必要。
以上のステップがあってやっと“好きになってもらえる”のスタートに立てるのではないか。なぜなら、私たちはコミュニケーションとは必然性の積み重ねであり、必要と理解されない相手とは真のコミュニケーション(醸成)は成立しないと考えるからだ。その真摯な企業姿勢の積み重ねこそが、顧客との真のコミュニケーション醸成への唯一の近道とますます強く感じる今日この頃である。
当ニューズレターの紙面の関係から紹介はこれで終わるが、このステップに関してもう少し知りたいという方は問い合わせフォームを通じて当社にリクエストいただけたら、あらためて詳細をご紹介したい。
