飽和した市場
今や商品・サービスさらには情報までもが飽和状態にある市場において、企業では「技術志向」、「顧客志向」、そして競合企業の強み、弱み、行動の変化などの情報の理解に重きを置く「競合志向」の観点から、売上アップの施策を模索している。
そして、それらの企業からは、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌に加えOOH(屋外広告)、Webなどの多種多様のメディアを通じて「これでもか」というように情報(広告)のつぶてが消費者に向けて投げられている。その中にあって、消費者は無意識に情報バリアを張り、自分に関連や関心がないモノ・情報に対してはなかなか反応しない反面、新しい、楽しいコンテンツには目を向けるという側面を有している。
当ニューズレターの読者の中にも、この企業からの一方的なコミュニケーションに対して「自分の気持ちを分かって欲しい・・・」と、思ったことはないだろうか。そこで、今号では「消費者の気持ちを察する」コミュニケーションのアプローチに立ち返れないかとの思いを書いてみた。
洞察力にすぐれた智将:石田三成
読者の皆様は、「石田三成」と聞くとどのような人物を思い描くだろうか?
- まじめ
- 人付き合いが下手
- 面白みがない
人を楽しませることや喜ばせることが好きだった主君、秀吉とは正反対の性格を思い描く方が多いのではないだろうか(私たち現代人の多くが描く、このネガティブな三成像は江戸幕府が作ったものらしい)。一方では、三成は洞察力が極めて優れた武将としても知られている。ところで、ご存知だとは思うが、この三成には羽柴秀吉(のちの豊臣秀吉)の小姓となるきっかけとなった逸話がある。
三献茶
秀吉が鷹狩りの途中で立ち寄った寺で茶を所望した際に、
一杯目:大きな茶碗に、なみなみとしたぬるいお茶
二杯目:やや小さめの茶碗に、少々熱くしたお茶
三杯目:小さな茶碗に、熱いお茶
という順番で三杯の茶を少年が秀吉に献じた。その少年こそ幼名、佐吉(のちの石田三成)で、秀吉はこの相手の状況を洞察する力に惚れ込み、三成を当時の居城であった長浜城へ連れ帰った、というものである。
もちろん脚色された話ではあるのだろうが、秀吉の右腕として辣腕(らつわん)を奮った史実からも、かなり三成の本質を表しているのではないだろうか?この三成の「三献茶」の話には、情報過多の現代に生きる私たちの広告施策にも通じるところがある、と筆者は考えている。
新規獲得広告コミュニケーションにおける三献茶
企業が行う新規顧客開拓の広告コミュニケーションにも「段階」が重要である。ただでさえ押し付けがましいモノと思われがちな広告を通じて、消費者に気持ちよく商品やサービスを購入してもらうには、三成のように消費者の気持を察して「段階」を踏んだコミュニケーションを行う必要がある。一方的なコミュニケーションでは、うるさい、目障りととられるリスクが多分にある。
その解消のために、当社が最近行った新規顧客獲得における「段階」を踏んだプロモーション事例をご紹介しよう。
(メールニュースのため、ここではクリエーティブなどの具体的な内容は割愛させていただく)
「目的:新規顧客獲得」
- 仕立て:オープンなプレゼントキャンペーンの応募者リストに対してDM送付後、アウトバウンドで新規顧客を開拓
- 誘引媒体:Web媒体中心
- 誘引受け皿:Webキャンペーンサイト
「企画のポイント」
- 消費者の趣味嗜好を切り口に、キャンペーンでコミュニケーションを図り見込顧客を収集
- 見込み顧客(応募者)のセグメント
- セグメントごとにコミュニケーションを実施
→キャンペーンでは商品と親和性のあるオファーを用意し、そのオファーを好む層に即した媒体のみに広告を出稿して見込み顧客リストを収集
→キャンペーン応募時に簡易アンケートを実施し、見込み顧客リストを見込み度などでセグメントする
→見込み顧客リストのセグメントに合わせて手法を変えながら、段階的にアプローチを行う
特に本施策は、コールセンターにてアウトバウンドを実施し新規顧客を獲得することが目的のため、見込み顧客リストの精度向上は必須である。単に「商品に興味がある」の回答肢だけでは、その背後にある消費者の「気持ち」が見えづらく、コールセンターのクロージングトークが一方的な「売らんかな」調になる可能性が高くなる。そのため、「趣味嗜好」をセグメント要素に加えることで、コールセンターのクロージングトークを見込み顧客に合わせて"柔らかく"組み立てることも可能になる。
また、トークスクリプト上でオファーに触れることにより、「あなたのライフスタイル、趣味嗜好に合う商品のご紹介」ということを暗に伝え成約率を上げることを目指した。
最初の「段階」では、見込顧客の「気持ち」を捉えることを意図とする。
この「段階」では、プレゼント申し込み時に簡易アンケートを実施し、見込顧客のセグメントを行った。アンケート上で商品への興味を5段階に分け、かつ商品購入決定権があるかを確認。さらに見込度を高中低の三段階に分けた。ここでのポイントは、見込顧客へアプローチする際のコミュニケーション頻度を効率的に行うことにある。つまり、商品への興味関心度が低い人に対してかけるコミュニケーションのコストを抑えるためである。
見込み顧客リストへの新規顧客開拓アプローチ施策は、次のとおり。
- 見込み度高:DM送付後アウトバウンドでアプローチ&チェイスDM(追っかけDM)の実施
- 見込み度中:DMで複数回アプローチした後にアウトバウンド
- 見込み度低:DM複数回送付のみ
コミュニケーション頻度の差異に加え、送付するDMに複数のクリエーティブを用意するともに、アウトバウンドのトークスクリプトも複数準備した。クリエーティブとしては、「見込度高」に対して商品の特徴やダメ押しとしての購入時のキャッシュバックを直接的に提示し、逆に「見込度低」に対しては用意したオファーと商品の関連性を提示するなど内容に差異をつけた。
つまり、「見込度高」は、オファーにも商品にも興味関心があるため、商品を具体的に紹介することで十分にコミュニケーションできるため、「見込度低」に対するクリエーティブとはそのような差をつけたのである。
新規獲得広告コミュニケーションにおける三献茶の結果
本施策を実施した効果としては、コンバージョン率が通常の新規獲得施策と比較して、2~3%向上した。
また、コールセンターのアウトバンドコールでも、通常と比べコミュニケーションが格段にスムーズだったとの声が聞こえた。(手前味噌かもしれないが・・・)
本施策を通じて、飽和した市場においては直接的、一方的に商品を勧めるのではなく、商品周辺のライフスタイルや趣味嗜好を切り口としてアプローチして行くことは、「手間」ではあるが有効な手段の1つであることが確認できた。
三献茶の話から長々と書かせていただいたが、一方的になりがちな広告コミュニケーションに「一手間」加えることで、獲得率が目に見えて向上することがご理解いただけたことと思う。もちろん、PDCAを継続的に回してより精度の高い施策を目指すことは言うまでもないことである。遠回りになりすぎてもよくないが、「一手間」かかったコミュニケーションを実施することは案外近道なのかもしれない。
あたたかいコミュニケーション
どんなに環境が変わっても、どんなにテクノロジーが発達しても、ヒトとしての気持の本質をくすぐることは、コミュニケーションの変わらない肝だと思う。特に、それは三成の三献茶にあるように、そのヒト(顧客・見込み顧客・消費者)の状況をしっかりと捉える洞察力によるところが大きい。この洞察力は、業務や経験を通じ、さらには企業ではPDCAを回すことによって鍛えられると思っている。
最後に、飽和した市場においては、「一手間」をかける「段階」を踏まえたコミュニケーションを通じて、消費者と対話を行うことをお勧めして、筆者の三献茶の話の結びとしたい。


































